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【新型コロナ】歴史的にみてどのくらいヤバいのか

現在、世界的に大流行している新型コロナウィルス(coronavirus, 2019-nCoV)による感染症COVID-19
その死者数や経済的損失の大きさから、人類の歴史にその悪名を刻むことはもはや確実だが、これまでにみられたパンデミックと比べて、果たしてどのくらいの規模なのだろうか。前代未聞と言えるのか、はたまた意外にもありふれたものなのか。
感染収束までの見通しは未だ立たず、最終的な規模は不明ではあるが、大雑把に見積もってみたい。

目次

死者数は実は「中くらい」?

人類がこれまでに直面してきたパンデミックの規模を、すごく分かりやすく可視化したチャートが Visual Capitalist から公表された。

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"Visualizing the History of Pandemics," Nicholas LePan.
https://www.visualcapitalist.com/history-of-pandemics-deadliest/ (参照 2020.4.16)

イガイガボールの大きさが各パンデミックの規模(死者数)を表しており、パンデミック同士を容易に比較できるようになっているほか、人類が幾度となく病原体に苦しめられてきた歴史も一目で分かる。有名な黒死病(Black death)は人類史上最恐であり、その死者はなんと2億人だ。*1

このチャート上では、COVID-19はすごく下の方に小さく書かれている。COVID-19による死者数の世界合計は、およそ12万人超(2020.4.14現在)。野口英世が研究したことで有名な黄熱病と同程度の規模となっており、紀元後のパンデミック20回中、第17位だ。この数字だけを見ると、「案外大したことはないのではないか?」という気がしてくる。

だが、2000年間にわたる出来事を一概に比較するのは乱暴だろう。大昔のパンデミック時には、現在よりも疫学的な知識や医療技術が不足し、生活水準も低かったことで死者数が増えてしまったと考えられるため、現在の状況との単純な比較はしづらい。

そこで、生活や技術の状況が現在にある程度近いと考えられる第二次大戦後に比較対象を絞ると、以下の表のようになる。

順位 病名等 流行年 死者数(万人)
1 エイズHIV/AIDS) 1981-現在 2500〜3500
2 アジア風邪(Asian Flu) 1957-58 110
3 香港風邪(Hong Kong Flu) 1968-70 100
4 豚由来インフルエンザ(Swine Flu) 2009-10 20
5 COVID-19 2019-現在 12
6 エボラ出血熱(Ebola) 2014-16 1.1
7 MERS 2015-現在 0.085
8 SARS 2002-03 0.077

パンデミックは全部で8回起こっており、エイズが圧倒的な1位。その中でCOVID-19は第5位だ(2020.4.14現在)。ふむ、やはりそれほど際立った数字ではない。この数字だけをもとに、COVID-19が歴史的にみてどのくらいヤバいのかという質問に答えるなら、「中くらい」ということになろうか。

ただし、これはあくまで現在までの累計死者数に基づく比較であり、今後、パンデミックが完全に収束するまでの間に出てしまうであろう死者数を計算に入れていない

先行きを考えれば少なくとも「中くらい以上」

そこで、今回のパンデミックが完全に収束した段階での最終的な死者数の見込みを大雑把に算出して、比較してみよう。

一般的に、感染症による死者数は、下の図(実線)に示されたインフルエンザの例のように、(i)増加し、(ii)ピークを迎え、(iii)徐々に減衰していくものと考えられる。

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Figure 1. Epidemic curve of pandemic influenza in Prussia, Germany, from 1918–19. (引用元:Hiroshi Nishiura, "Time variations in the transmissibility of pandemic influenza in Prussia, Germany, from 1918-19," Theoretical biology & medical modelling, 4, pp.20, 2007)

現在、世界各国で医療従事者の懸命の働きやロックダウンが功を奏し、COVID-19による死者数にピークアウトの兆しが見えているとの報道をちらほら耳にする。つまり、現在我々は上図でいうところのピークにいるということだ。

ここでは簡単のため、医療崩壊や第二波の可能性を無視し、かなり楽観的に見積もってみよう。死者数の推移のカーブは、ピークを境に概ね左右対称であると見る。つまり、ピークから収束までに出る累計死者数は、ピークを迎えるまでの累計死者数と同数に収まると仮定する。この場合、COVID-19による最終的な死者数の世界合計は、現在(ピーク)までの累計死者数およそ12万人の2倍で、およそ24万人ということになる。

この数字を、先ほどの Visual Capitalist によるチャートに当てはめると、黄熱病や2009年の豚由来インフルエンザによる累計死者数を抜き、紀元後のパンデミック20回中では少なくとも第15位、第二次大戦後のパンデミック8回中では少なくとも第4位までは上昇する見込みとなる。上述のとおり、かなり楽観的に見積もってこれであるから、今後状況がさらに悪化し、順位を上げないとも限らない。従って、先行き収束までの死者数見積もりを勘案すれば、COVID-19は歴史的にみて少なくとも「中くらい以上」のヤバさだと言えるだろう。

まとめ

現在、全人類の関心を一挙に集めているCOVID-19。そのヤバさ(死者数の多さ)をパンデミックの歴史に照らすと、意外にも「中くらい」であって、前代未聞というほどのものではないことが分かった。

しかし、完全に収束するまでに出てしまうであろう死者数の見込みを考慮に入れると、かなり楽観的な見積もりをしたとしても、少なくとも「中くらい以上」にはヤバくなりそうであることも分かった。より実際的な見込みにおいては、医療崩壊による感染のさらなる拡大や、ロックダウン明けの油断による第二波の可能性も指摘されており、楽観視できる状況では毛頭ない。

さらに、言うまでもないが、ここでCOVID-19を比較していた対象は人類史に名を残したヤバいパンデミックたちであり、その中で仮に「中くらい」であったとしても、そもそもパンデミックしている時点でヤバいのである。明日は我が身と思い、なるべく家に引きこもろうではないか。

     

(おまけ)全人口に対する死者数の割合

病原体のパンデミックで多数の死者が出ることは上述のとおりであり、言わずもがなでもあるが、その全人口に対する割合というのは一体どれほどのものなのだろうか。ここでは、第二次大戦後のパンデミックについて、その死者数が流行期間中の人口の平均値に占める割合を見てみよう。*2

順位 病名等 流行年 死者数(万人) 世界人口(億人) 割合(%)
1 エイズ 1981-現在 2500〜3500 61.8 0.485599
2 アジア風邪 1957-58 110 29.0 0.037938
3 香港風邪 1968-70 100 36.3 0.027579
4 豚由来インフルエンザ 2009-10 20 69.1 0.002892
5 COVID-19 2019-現在 12 77.5 0.001548
6 エボラ出血熱 2014-16 1.1 73.8 0.000149
7 MERS 2015-現在 0.085 75.9 0.000011
8 SARS 2002-03 0.077 63.4 0.000012

かなり雑な計算ではあるものの、これでなんとなくの規模感はつかめるのではないだろうか。ちなみに、一説によると黒死病による死者数の当時の人口に占める割合は20%超だというから恐ろしい。それと比べて表中の数字が小さいのは、人類の疫学知識の蓄積の表れかもしれない。

数字が小さすぎて分かりにくいので言い換えると、COVID-19については100万人あたりおよそ15人、東京都の人口930万人あたりではおよそ140人超が死亡する割合ということになる。東京都で確認されている死者数は47(2020.4.14現在)なので、今のところ世界平均よりはだいぶマシと言えるだろうが、油断はできない。

*1:チャート上でMはmillion=100万を表すため、200M=2億。

*2:第二次大戦後のみを対象としたのは、人口の統計が1950年以降の分しか入手できなかったため。データの出所:United Nations, Department of Economic and Social Affairs, Population Division (2019). World Population Prospects 2019, Online Edition. Rev. 1.